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Little Miss One-way

思いつくままに恋愛小説をつづります。 大学生同士のちょっと変わった恋愛を書いた 「いびつなハート」連載中です。

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2008/09/13

影山くんの奇妙な日常 第一話

 俺は影山真人、大学二年生。勉強はそこそこにバンド活動とバイトに勤しむ毎日だ。
 バンドではボーカルをやっていてそこそこ人気がある。自分で言うのもなんだけど結構もてる。でも俺はあまり女性と付き合うのが得意じゃなくて特定の彼女はいない。これは姉三人に囲まれて育ったせいだと思っているが因果関係は定かでない。
 そんな俺が、ある日バンドのファンということで親しくなったミサという女子高生から相談を受けた。俺はよく女の子から相談されるがこれも三人の姉に囲まれて育ったせいだと思うが……まあ、いい。
 携帯で呼び出され、指定されたファミレスに行くと、ミサはもう窓際の席に座って待っていた。高校生のくせに茶色の髪をぐりぐりと弄りながら煙草を吸っている。俺が席に着くと、待っていたように口を開いた。
「最近、彼氏がおかしいの」
 彼氏は大学生で一人暮らしをしており、ミサは実家に住んでいる。毎日学校が終わってから電話をかけ、彼氏の家に通う毎日だそうだが、最近携帯がいつも圏外なのだという。
「ただ、家に行けば何事もなかったようにいるのよね。電話したんだけどっていうと、いつも気付かなかったっていうんだ」
 でなんでそれを俺に言うのか、どうしてほしいのか。と思いつつも俺は頷いて先を促す。
「もうひとつ気になってることがあって。彼の部屋、居間の奥が寝室なんだけどね、その寝室に最近いつも鍵がかかってたんだ。変だなと思ってたんだけど」
 ここまで話したところでウエイトレスがお冷を持ってきた。コーヒーを注文する。
「ある日また電話が通じなかったから直接彼の家に行ったんだ。で、いつもチャイム鳴らすんだけどその日はこっそり鍵を開けて入ったの。合鍵がポストの裏にあるのをずいぶん前に見つけてたから」
 注文したコーヒーが運ばれてきた。コーヒーを飲みながら話を聞く。
 ミサが足音を立てずにそろそろと入っていくと、居間に彼は見当たらず、奥の寝室からぼそぼそと話し声が聞こえたという。なんだか怖くなって声をかけると、彼が寝室から飛びだしてきたそうだ。
「その時ね、寝室の引き戸の隙間から、見えたの。女の人の後ろ姿が!」
「やっぱ浮気してたのか」
「うん、ただの浮気ならいいんだけどね……。最近寝室に鍵がかかってたこととか考えるとなんか心配になっちゃって。様子もおかしいし」
 その日はこっそり入ってきたことに激怒され彼の家をすぐに追い出されたため、それ以上のことはわからないという。
 ミサは彼氏がなにか犯罪のようなことにかかわってないか不安なようだ。
「でもなんだかんだいっても私まだ子供だし、なにかあっても対処できないし」
 そこまで言うとミサは急に俺に手を合わせると
「おねがい! 今から彼氏の家に行くからついてきて!」
 と頭を下げた。俺はあまり気が進まなかったが、なにやら怪しい気配がするし、ミサに何かあっては困ると思い、ついていくことにした。彼氏の家はこのファミレスから歩いて五分ほどの距離にあるという。さっそく伝票を取ってレジに向かった。
 家まで歩く途中、彼氏についてミサが話し出した。
 彼氏の名前はキョウタロウ。美術大学の四年生で、真面目な、おとなしい人物らしいが、芸術家らしくかなり神経質で変わり者のようだ。ある日家に行ったら居間の壁中にいろいろな彫刻の写真が貼ってあり、ミサを驚かせたこともあるらしい。
 ただ高校生のミサにはそんな所もアーティスティックに映ったようだ。そしてなにより、このキョウタロウはものすごい美形なのだそうだ。ミサいわくそこに「も」惹かれたらしいが、俺は「も」は不要じゃないかと思っている。
 最近は卒業制作のため大学と家のどちらかで作業をしていることが多かったという。
 そうこうしているうちにアパートの前に着いた。ミサが携帯に電話をかける。いつものように圏外だったようだ。
「きっと家にいるわ。こっそり入って浮気現場を押さえるのよ」
 といってミサはポケットから鍵を取り出し掲げた。そういうつもりだったのか。なんだか大変なことになってきたがここまできたら行くしかない。
 彼の住む三階までエレベータで上がり、部屋の扉の前に着くと、ミサは唇に一本立てた人差し指を当て、静かに鍵を挿し、回した。……こういう感じの、テレビで見たことあるような。
 チャ、と小さな音をたてて鍵が開いた。ゆっくり扉を開き、体分開いた所で中に入る。正面に居間が見えたが、電気やパソコンは煌々とついているにもかかわらず、誰もいない。居間の奥に襖が見える。おそらく襖の向こうが寝室なのだろう。ミサは俺の手を引くと土足のまま忍び足で居間を通り抜け、襖の前に立った。奥からぼそぼそと話し声が聞こえる。
 またミサが人差し指を立てて唇にあてると、反対の手で襖を引いた。襖には錠を差し込む金具が付いており、今は鍵は付いていなかった。もしかすると内側に鍵がかかっているかもしれないと思ったが、何の手ごたえもなく一センチほど開いた。幸いにも全く何の音もしなかった。
 隙間から中を覗くと、薄暗い部屋の中に、ベッドに座る二人の影が見えた。カーテンを閉め切り、ナイトランプのような暗めのライトをつけているようだ。
 キョウタロウは、隣に座るセミロングの栗色の髪の女性の肩を抱き、何かを話していた。はっきりと聞き取れないが愛してるとか、綺麗だとか、そんな感じのことをうっとりと呟いているようだ。女性は俺たちにほとんど背を向けており、顔は見えない。
 キョウタロウが女性の顎に手をそえ、引きよせたように見えた。と
 思った瞬間、ミサが我慢の限界に来たらしく、勢いよく襖を開けた。
「キョウちゃんのバカー!」
 とミサは叫ぶと、部屋に飛び込んでいった。俺も勢いに任せ後に続く。キョウタロウはミサの声にビクっと反応し、目を剥いて俺達を見上げた。白いほっそりとした顔が、居間から延びた蛍光灯の白い光に照らされる。女性は俺たちに背を向けたまま微動だにしない。
「ミサ……」
 ミサは、そう呟くキョウタロウを一瞥すると、意識をじっとしたまままの女性のほうに向けた。
「ちょっとあなた、どういうつもりなの!?」
 ミサは女性の肩に手を置き、こちらを向かせるようにグイと引っ張った。
 すると女性は音もなく仰向けにベッドの上に倒れてしまった。ミサが悲鳴をあげる。二人でおそるおそる女性を覗き込むと、ミサに引っ張られて服がはだけた右肩に、関節のつなぎ目が覗いていた。
 それは、プラスチックのマネキンのような人形だった。
 黄色いサマーセーターから伸びた白いすべすべとした首が、蛍光灯の白い明りを吸いこんで冷たく光っていた。赤く瑞々しい唇の上に、形の良い小ぶりの鼻があり、その両脇に大きく真っ黒なガラスの瞳が宙を仰いでいる。肢体は両腕を広げた格好で固まっていて、彼女だけ時間が止まってしまったかのようだった。
 俺とミサは言葉もなく立ち尽くし、沈黙で数秒が過ぎた。
「……けよ」
 キョウタロウが、人形を抱き起こし、何かつぶやいた。
「出てけよ――!!」
 キョウタロウが絶叫するのに弾かれるように、俺たちは黙ってキョウタロウの家を後にした。その後、ミサとどこで別れたのか、どんなふうに家に帰ったかも覚えていない。
 これは後で気づいたことだが、キョウタロウの中世的な美しい顔と、マネキンのなまめかしく微笑む顔はそっくりで、今でも目をつぶるとありありと思い出せるほどだ。
 あの人形は何だったのか、ミサとキョウタロウがその後どうなったか、俺は知らない。

第二話へ

あとがき↓ 注意*他作品のネタばれがあります。
あとがき

江戸川乱歩 人でなしの恋 のオマージュ作品として書きました。
影山くんシリーズでは奇妙な味のする短編を書こうと思ってます。
よろしければ本編と一緒にお楽しみください。
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