Little Miss One-way
思いつくままに恋愛小説をつづります。 大学生同士のちょっと変わった恋愛を書いた 「いびつなハート」連載中です。
影山くんの奇妙な日常 第二話の1
俺は影山真人、大学二年生。勉強はそこそこにバンド活動とバイトに勤しむ毎日だ。
バンドではボーカルをやっていてそこそこ人気がある。そして自分で言うのもなんだけど結構もてる。でも俺はあまり女性と付き合うのが得意じゃなくて特定の彼女はいない。これは姉三人に囲まれて育ったせいだと思っているが因果関係は定かでない。
今日は十二月二十三日、クリスマスイブイブってやつだ。俺は大学の友人とやっているバンドのライブのため、ライブハウスFの控室に来ていた。今は対バンしてくれたレナーレというバンドがステージで演奏している。俺は喉に優しいという温かいハーブティーを飲みながら、本番で忘れないようにプリントアウトした歌詞を見ていた。隣ではドラムの玲がスティックでテーブルを叩いて練習している。
ふと玲のスティックを握る指が目にとまった。黒いマニキュアを塗っている。
「玲、どうしたんだよ、その爪」
俺は思わず玲に聞いた。よくぞ気付いた、とばかりに手を止めて玲が答える。
「かわいいだろ? ヤスに塗ってもらったんだよ」
ヤスは玲が可愛がっている軽音サークルの後輩だ。今日も裏でなにかと手伝いをしてくれた。
「ふーん」
そう言ったきり後が続かない。わざわざ聞いた割にそっけない反応をしてしまったのは、初恋の女性を思い出していたからだった。俺が黙ったので、玲もすぐにテーブルを叩くのを再開した。そして俺は俺で、黒いマニキュアを見てそれとは対照的な真っ白な女性を思い出していた。
高校一年生の夏休みだったと思う。俺はもう日が高くなってから起きだして楽器やオーディオ関係が置いてある離れの二階へ行った。中二からバンドなどに興味を持ち始めた俺のために、親がうるさいからと物置の二階を俺用のスペースにしてくれたのだ。
その日も外は晴天で暑く、離れは閉め切られて蒸していた。俺は部屋に入ると年代物のエアコンのスイッチを入れた。部屋の奥の窓をからりと開け、空気を入れ替える。そうでもしないとエアコンが効き始める間に干からびてしまいそうだった。
不意に窓の外から水音が聞こえ、俺は反射的に窓から音のするほうを見た。そこが隣の家の風呂なのだと認識したのはかなり後になってからだったと思う。隣の家の一階の曇りガラスの窓が十センチほど開いて、そこからシャワーの水音が漏れていた。
中にいるのは若い女性の様で、隣の家の娘さんだとそのとき直感した。家族にミユキと呼ばれているのを聞いたことがあった。
窓の隙間からは、真っ白な肩からうなじ、そこから続く顎から鼻のあたりまでが見えた。外に比べて薄暗い風呂場に真っ白い肌が浮き立っていて、その眩しいほど白い二の腕に、赤い線が走っていた。傷だ。蚯蚓腫れのような長い傷。白い肌と真っ赤な傷がゆるゆると動くその光景に、俺は思わず息をのみ、目が離せなくなった。
何秒かその光景を呆然と見ていたと思う。白い腕が窓の淵に伸びてきた。ミユキが窓が開いていることに気付いて、閉めるために窓に近づいてきたのだ。まずい、覗いているのがばれる、と思ったが体も目線も動かせなかった。白い手が曇りガラスの窓にかかる。
窓を閉めるとき、一瞬ミユキは上を見上げ、俺は目が合ったような気がした。シャワーで火照ったのか、不自然なぐらい赤くなったミユキの唇が目に焼きついた。
それから俺はミユキのことばかり考えて悶々としていた。お隣さんなので、出かけるときに家の前で顔を合わせることがあった。ミユキは当時大学生で、自転車で通学していたようだった。自転車をガレージに止めているのをよく見かけ、俺が勇気を振り絞って挨拶すると、振り返ってあら、こんにちはと微笑んだ。清楚なお嬢さんと言って出で立ちで、その上品な笑顔に胸が熱くなった。もっと仲良くなりたい、何か話しかけるきっかけがほしいと願っていたが、残念ながら挨拶する以外に接点はなかった。
二話の2へ
バンドではボーカルをやっていてそこそこ人気がある。そして自分で言うのもなんだけど結構もてる。でも俺はあまり女性と付き合うのが得意じゃなくて特定の彼女はいない。これは姉三人に囲まれて育ったせいだと思っているが因果関係は定かでない。
今日は十二月二十三日、クリスマスイブイブってやつだ。俺は大学の友人とやっているバンドのライブのため、ライブハウスFの控室に来ていた。今は対バンしてくれたレナーレというバンドがステージで演奏している。俺は喉に優しいという温かいハーブティーを飲みながら、本番で忘れないようにプリントアウトした歌詞を見ていた。隣ではドラムの玲がスティックでテーブルを叩いて練習している。
ふと玲のスティックを握る指が目にとまった。黒いマニキュアを塗っている。
「玲、どうしたんだよ、その爪」
俺は思わず玲に聞いた。よくぞ気付いた、とばかりに手を止めて玲が答える。
「かわいいだろ? ヤスに塗ってもらったんだよ」
ヤスは玲が可愛がっている軽音サークルの後輩だ。今日も裏でなにかと手伝いをしてくれた。
「ふーん」
そう言ったきり後が続かない。わざわざ聞いた割にそっけない反応をしてしまったのは、初恋の女性を思い出していたからだった。俺が黙ったので、玲もすぐにテーブルを叩くのを再開した。そして俺は俺で、黒いマニキュアを見てそれとは対照的な真っ白な女性を思い出していた。
高校一年生の夏休みだったと思う。俺はもう日が高くなってから起きだして楽器やオーディオ関係が置いてある離れの二階へ行った。中二からバンドなどに興味を持ち始めた俺のために、親がうるさいからと物置の二階を俺用のスペースにしてくれたのだ。
その日も外は晴天で暑く、離れは閉め切られて蒸していた。俺は部屋に入ると年代物のエアコンのスイッチを入れた。部屋の奥の窓をからりと開け、空気を入れ替える。そうでもしないとエアコンが効き始める間に干からびてしまいそうだった。
不意に窓の外から水音が聞こえ、俺は反射的に窓から音のするほうを見た。そこが隣の家の風呂なのだと認識したのはかなり後になってからだったと思う。隣の家の一階の曇りガラスの窓が十センチほど開いて、そこからシャワーの水音が漏れていた。
中にいるのは若い女性の様で、隣の家の娘さんだとそのとき直感した。家族にミユキと呼ばれているのを聞いたことがあった。
窓の隙間からは、真っ白な肩からうなじ、そこから続く顎から鼻のあたりまでが見えた。外に比べて薄暗い風呂場に真っ白い肌が浮き立っていて、その眩しいほど白い二の腕に、赤い線が走っていた。傷だ。蚯蚓腫れのような長い傷。白い肌と真っ赤な傷がゆるゆると動くその光景に、俺は思わず息をのみ、目が離せなくなった。
何秒かその光景を呆然と見ていたと思う。白い腕が窓の淵に伸びてきた。ミユキが窓が開いていることに気付いて、閉めるために窓に近づいてきたのだ。まずい、覗いているのがばれる、と思ったが体も目線も動かせなかった。白い手が曇りガラスの窓にかかる。
窓を閉めるとき、一瞬ミユキは上を見上げ、俺は目が合ったような気がした。シャワーで火照ったのか、不自然なぐらい赤くなったミユキの唇が目に焼きついた。
それから俺はミユキのことばかり考えて悶々としていた。お隣さんなので、出かけるときに家の前で顔を合わせることがあった。ミユキは当時大学生で、自転車で通学していたようだった。自転車をガレージに止めているのをよく見かけ、俺が勇気を振り絞って挨拶すると、振り返ってあら、こんにちはと微笑んだ。清楚なお嬢さんと言って出で立ちで、その上品な笑顔に胸が熱くなった。もっと仲良くなりたい、何か話しかけるきっかけがほしいと願っていたが、残念ながら挨拶する以外に接点はなかった。
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