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Little Miss One-way

思いつくままに恋愛小説をつづります。 大学生同士のちょっと変わった恋愛を書いた 「いびつなハート」連載中です。

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2009/07/06

影山くんの奇妙な日常 第三話

 俺は影山真人、大学二年生。勉強はそこそこにバンド活動とバイトに勤しむ毎日だ。
 バンドではボーカルをやっていてそこそこ人気がある。そして自分で言うのもなんだけど結構もてる。逆ナンだってけっこうされる。バンドをやっているのでこちらが知らない人にも名前を覚えられていて、いきなり声をかけられることもしばしばだ。
 あれは去年の十月、駅前の楽器店を目的もなくうろついていた時だった。
「あの、影山くん?」
 不意に声をかけられ、またかなと反射的に営業用スマイルをつくると、声のほうを向く。
「そうだけど? 何か用?」
 声の主はきれいな女の子だった。同い年くらいだろうか、ちょっと大人っぽい雰囲気もあって少し年上ぐらいかもしれないと思った。その子に見覚えはなかったけれど、美人なので悪い気はしなかった。
「知り合いに木下譲二っているでしょ?」
 彼女の言葉は俺の期待に反していたけれど、珍しいことではなかった。同じバンドのメンバーに伝言やなにかを渡してくれと頼まれることもよくあることで、それはメンバーの中でも人気のある木下がダントツに多かったからだ。
「うん、木下になんか伝言でも?」
 なんだ、木下のファンか、とちょっとがっかりしつつも笑顔を保ったまま問いかける。
「よかった、うろ覚えだったから。譲二のバンドのボーカルさんだよね? 私、レイコって言います。譲二と芸くんの友人なんだけど……。二人は元気?」
「ああ、そうなんだ。二人とも元気だよ。なんならここに呼ぼうか?」
 そう提案すると、レイコは少し考えて首を振って言った。
「ううん、いいの。それより今時間があるならちょっとお願いがあるんだけど、聞いてくれない?」
 俺も特に予定がなく、時間を持て余していたから、近くの喫茶店に入ることにした。
 二人ともコーヒーを頼む。注文が済むと、レイコが口を開いた。
「私、バンドに興味があって、やってみたいんだけど、誰か紹介してくれないかな?」
 唐突に彼女はそんなことを言った。そしてこう付け加えた。
「初めて会った人に急にこんなこと言うの図々しいよね、ごめんね。さっきの楽器屋でよさそうな人に声かけて見ようと思ってたんだけど、目に付いた人が影山くんだったから」
 レイコはちょっと眉を寄せて申し訳なさそうな顔をする。
「バンドメンバー探している奴なら何人か当てもあるし、そこそこ腕がある奴もしってるし、それにレイコちゃんみたいに可愛い子ならみんな大歓迎だと思うけど……。木下や清水谷に相談してみた?」
「ううん、二人には三年以上会ってないことになるのかな。それにもう、二人とは連絡取らないほうがいいんじゃないかと思ってるとこもあって……」
 そう言うとレイコは目を伏せた。なにか木下と清水谷どちらかわからないけどわけありのようだ。そして女性に頼られると無下にできないのがこの俺だ。
「わかった。木下たちには内緒で心当たりに声かけてみるよ。連絡先を教えてくれる?」
 そう言って俺は携帯を取り出した。
「ありがとう!」
 レイコは満面の笑みで礼を言うと、携帯を取り出し番号を交換した。
 程なくして俺は大学の友人を紹介してやり、レイコは顔合わせの後、無事にバンドをはじめたようだった。レイコからはいい人たちを紹介してくれてありがとう、と言うメールが届き、紹介した大学の友人たちもすごく歌もギターもうまくていい子だと喜んでいて、満足した俺は日常に追われ、レイコのことをすっかり忘れていた。

 クリスマスライブのチケットを捌いているとき、ふとレイコのことを思いだし、すぐに電話をした。
「十二月二十三日なんだけど、どう?」
 そう言うとレイコは声を弾ませて、
「うん、いくいく!」
 といい返事をした。俺は誘ってよかったと思った。
「じゃあ、ライブ始まる前に待ち合わせしよう。チケット渡すからさ」
「了解」
 ライブ当日、俺とレイコはライブハウスの近くのファーストフードで待ち合わせをした。
 俺がライブの準備を終えて抜け出してくと、レイコはもう窓際の席でコーヒーを飲んでいた。
「おまたせ、これチケット」
 向かい側の席に座るなりチケットを差し出す。
「さっきライブハウスの前まで行ったけどすごい並んでたよ。人気あるんだね」
 レイコはにっこり笑うと、チケットを受け取りながらそう言った。
「いや、あれは対バンしてるバンドのファンだよ」
 そう言って謙遜しつつも、ちょっとうれしくなる。
「よかったら、打ち上げにもおいでよ」
 そう言って誘うと、レイコは首を振った。
「いいの、明後日私もライブがあって。明日練習だしゆっくりできないから」
「木下や清水谷に会っていかないの?」
 そう聞くとレイコはまた首を振って黙った。俺は何となく気まずくて話を変える。
「そっちのバンドの調子はどう? 明後日はどこでライブやるの?」
「うん、Pランドでやるんだけど路上ライブだからもし時間があれば。本当にバンド楽しくって。でもせっかく紹介してもらったんだけど、実は私の都合で三カ月限定のバンドにしてもらったんだ。だから今回が最初で最後のライブになるかもしれないけど」
「そうなんだ。クリスマスは俺バイトだわ。ケーキ配りの。すごい残念だな。また機会あったらぜひ」
 そんな感じで少し雑談をすると、俺は、じゃあまたあとで、と言い、またライブハウスに戻った。
 ライブが始まるとステージの上から彼女を探した。一番後ろのほうにポツンと立っているのが見えた。出番が終わるとその場所まで行ってみたけど、すでに帰ってしまったようで、彼女の姿はなかった。

 久しぶりにメールが届き、レイコに会うことになったのは年が明けてすぐのことだった。待ち合わせは、初めて会ったときと同じ駅前の喫茶店だった。
「いろいろお世話になって、ありがとう」
 顔を合わせるなり、レイコはそう言って笑った。もうどこかへ行ってしまうような口ぶりだった。とりあえずどういたしまして、と応じる。
「そういえばPランドのライブの日、譲二たちに会った。デートしてたみたい」
 レイコは少し寂しそうな顔をした。ちょうどいい機会だと俺は、前から思っていた疑問を口にした。
「あの、レイコちゃんと木下と清水谷ってどういう関係なの?」
 尋ねるとレイコは本当に悲しそうな顔をした。
「私、そう、私ね、譲二の婚約者なの」
 そう言うと薬指に光る指輪を見せた。
「ええ? 婚約者? あいつそんなこと一言も……」
 俺は彼女の急な告白にびっくりして口ごもった。木下は俺と同じでまだ二十歳だし大学生だ。それに木下には実花ちゃんという仲のいい女の子もいる。
「うふふ、といってもまだ今は婚約してない」
 そう言ってレイコは笑った。俺をからかって楽しんでいるかのような口調だ。どういう意味だろう。この子少しおかしいんじゃないのか。もしかして木下のストーカーか何かだったのだろうか? 俺は少し気味悪くなっていた。
「私、もう何年もいろんなところを転々としててね。影山くんにはなんか思い出話をしたくなっちゃった。きいてくれる?」
 真剣な、縋る様な目つきでこんなことを言うレイコを、俺はとにかく刺激してはいけないような気がして、ただ頷くしかなかった。
「私と譲二は、二十四歳のときに出会った。楽器メーカに勤めてて同じ部署で働いてたのよ。それで意気投合して、付き合い始めた。婚約して、仕事も慣れてやりがいを感じられるようになって、これからって時に、事故にあってしまった。それからいろいろなところに飛ばされるようになった」
「飛ばされる?」
 俺は思わず聞き返していた。話の先が見えず混乱してきた。
「そう。タイムスリップ。信じられないでしょ? 初めは高校時代に。でも自分の家に行ったら、もう一人の、高校生の自分がいて、普通に生活をしていた。だから居場所がなくなってしまって、どうしようか悩んだ末に、譲二に会いたくなってH市で暮らすことにしたの」
「ちょっと、まって。仮にその話が本当だったとして、住むところも着る物もお金もない状態だろ? どうやって生活してたんだ?」
 俺は疑問に思ったことをそのまま口に出して尋ねていた。
「とりあえず、財布にお金があったんだけど、お札が変わってしまっていたから小銭しか使えなかった。カードももちろん使えなくて。それでH市に移動してからしかたなく水商売をしたの。お店の寮に入って、切り詰めて生活したら結構すぐにお金が貯まった。寮を出て一人暮らしして、譲二とも偶然ぽく知り合えて、楽しく暮らしてたんだけど、三ヶ月ぐらい経ったらまた別の時代に飛ばされちゃって。いままでいろんな時代を転々としてる」
 そこでレイコは言葉を切って俺の顔を見た。
「信じられない……」
 俺は思わずそうつぶやいていた。レイコは少し笑うと、
「そうでしょうね」
 と言った。そして一枚のお札を取り出した。
「これは私が事故にあった時代に使われていた千円札よ。私のことはこれを大事にとっておけばそのうちわかるわ」
 お札にはある学者の顔が印刷されていて、今までに見たこともないものだったが、確かに日本銀行券と印刷されていた。
「そろそろいかなくちゃ、これ、お世話になったお礼に」
 レイコは三十センチ四方の紙袋を差し出した。中には小さな充電式のアンプが入っていた。
「これ……」
「私にはもう、使えないものだから。じゃあ、またね」
 そう言うとレイコはコーヒー代の小銭をおいて席を立ち、喫茶店を出て行った。俺は急いで会計をすると後を追って喫茶店を出た。見通しのよい大通りだというのに、すでにレイコの姿は見当たらなかった。
 レイコに楽器店で声をかけられてから、ちょうど三ヵ月が経っていた。
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