Little Miss One-way
思いつくままに恋愛小説をつづります。 大学生同士のちょっと変わった恋愛を書いた 「いびつなハート」連載中です。
いびつなハート20 クリスマス2
途中道草しつつ、一時間半ぐらいでPランドに着いた。入口のところで園内マップを手に取る。Pランドは海浜公園とショッピングモールと簡単なアミューズメントパークがごっちゃになったようなテーマパークだ。入口部分から左右にショッピングモールが続いていて、ショッピングモールを真っ直ぐ通り抜けると外に出る。外は海に面していて、左側に大きな観覧車や小さいジェットコースターなどの乗り物があって、右側は植木やベンチなどが並ぶ公園になっているようだ。
実花の案内でまずはショッピングモールを見て回ることにした。歩いている時も自然に実花と木下、私と清水谷くんがペアになる。というのも実花が木下の隣りにぴったりくっついているからだけど……。実花は木下の腕に腕をからめていて、木下もべつに意識するわけでもなく自然にしていた。私と清水谷くんは五センチぐらいの距離を保って歩いていた。なんとなく落ち着かない。
先を歩いていた実花があっと声をあげて止まった。雑貨屋さんの入り口のところに飾られていた白いニット帽が気になった様子。詰まっていた丸めたビニールを取り出すと、ニット帽をかぶり、満面の笑みで私たちのほうを振り向いて言った。
「見てみて! 木下とおそろいっぽくない?」
「おそろいっぽいし、めっちゃ似合う」
私が答えるとへへ、と照れ笑いして言う。
「買っちゃおうかな……」
「その前に他のも見てみれば? 俺は帽子にはちょっとうるさいよ?」
木下がそう言って店の奥に入って行った。実花がうれしそうに
「選んでくれるの?」
と言いながらあとに続いていった。
「あきちゃんにはこれが似合いそう」
清水谷くんがそう言って白いニット帽の隣りにあったチェックのキャスケットをかぶせると、ほら、といって近くにある鏡を指差した。確かに自分の好みの感じで一目で気に入っていた。
「かわいいね、気に入った」
清水谷くんを振り向いて言うと、清水谷くんはにっこり笑って私の頭から帽子をとると奥に入って行った。買ってくれる気なのだ。
「いいよ、自分で買うし……」
といって追いかける。清水谷くんはくるりと振り返って
「俺が今日一日この帽子かぶってるあきちゃん見てたいから、買ってあげたいんだ」
といってさっさと会計を始めた。しかし、なんというきざなセリフなのか、耳まで真っ赤になってしまった。ぼーっとしていると、清水谷くんは会計を済ませて戻ってきた。そして店員さんにタグを切ってもらった帽子をフワッと私の頭に乗せて、また優しくにっこと笑った。私への好意を少しも隠さないその態度にドキドキしてしまう。
実花と木下も帽子を選び終わって店から出てきた。実花はさっきのニット帽よりももこもこした、コートとおなじ薄いピンク色のニット帽をかぶっていた。
「木下が選んだの?」
ちょっと冷やかすように実花の帽子を指差して聞く。
「まあね、さっきのより実花に似合ってるだろ?」
と木下が得意げに言った。実花がうれしそうに笑っている。
「おまえも似合ってるよ、それ」
木下もニヤニヤと冷やかすように言った。思わず顔が赤らむ。……仕返しされたみたいだ。
その後もぶらぶらとショッピングモールを見て、少し遅い昼食をとると、海を見に公園のほうに向かった。
21へ
実花の案内でまずはショッピングモールを見て回ることにした。歩いている時も自然に実花と木下、私と清水谷くんがペアになる。というのも実花が木下の隣りにぴったりくっついているからだけど……。実花は木下の腕に腕をからめていて、木下もべつに意識するわけでもなく自然にしていた。私と清水谷くんは五センチぐらいの距離を保って歩いていた。なんとなく落ち着かない。
先を歩いていた実花があっと声をあげて止まった。雑貨屋さんの入り口のところに飾られていた白いニット帽が気になった様子。詰まっていた丸めたビニールを取り出すと、ニット帽をかぶり、満面の笑みで私たちのほうを振り向いて言った。
「見てみて! 木下とおそろいっぽくない?」
「おそろいっぽいし、めっちゃ似合う」
私が答えるとへへ、と照れ笑いして言う。
「買っちゃおうかな……」
「その前に他のも見てみれば? 俺は帽子にはちょっとうるさいよ?」
木下がそう言って店の奥に入って行った。実花がうれしそうに
「選んでくれるの?」
と言いながらあとに続いていった。
「あきちゃんにはこれが似合いそう」
清水谷くんがそう言って白いニット帽の隣りにあったチェックのキャスケットをかぶせると、ほら、といって近くにある鏡を指差した。確かに自分の好みの感じで一目で気に入っていた。
「かわいいね、気に入った」
清水谷くんを振り向いて言うと、清水谷くんはにっこり笑って私の頭から帽子をとると奥に入って行った。買ってくれる気なのだ。
「いいよ、自分で買うし……」
といって追いかける。清水谷くんはくるりと振り返って
「俺が今日一日この帽子かぶってるあきちゃん見てたいから、買ってあげたいんだ」
といってさっさと会計を始めた。しかし、なんというきざなセリフなのか、耳まで真っ赤になってしまった。ぼーっとしていると、清水谷くんは会計を済ませて戻ってきた。そして店員さんにタグを切ってもらった帽子をフワッと私の頭に乗せて、また優しくにっこと笑った。私への好意を少しも隠さないその態度にドキドキしてしまう。
実花と木下も帽子を選び終わって店から出てきた。実花はさっきのニット帽よりももこもこした、コートとおなじ薄いピンク色のニット帽をかぶっていた。
「木下が選んだの?」
ちょっと冷やかすように実花の帽子を指差して聞く。
「まあね、さっきのより実花に似合ってるだろ?」
と木下が得意げに言った。実花がうれしそうに笑っている。
「おまえも似合ってるよ、それ」
木下もニヤニヤと冷やかすように言った。思わず顔が赤らむ。……仕返しされたみたいだ。
その後もぶらぶらとショッピングモールを見て、少し遅い昼食をとると、海を見に公園のほうに向かった。
21へ
いびつなハート21 クリスマス3
公園では路上ライブをしている人たちが何人かいて、木下と清水谷くんが俄然興奮しだした。すぐ目の前でベース、キーボード、ドラム、ギターボーカルの四人組のバンドが準備をしていた。機材を見て木下が言う。
「充電式のアンプかぁ。俺も買おうかな」
「木下路上ライブなんかするの? ベース一本で? はなわ?」
すかさず実花が突っ込みを入れる。
「俺だってギターぐらい弾けるよ。ていうかミドルガーデンでやるかもしれないだろ」
「あんなうるさい曲ばっかのバンド路上で出来ねえよ」
清水谷くんも苦笑いで会話に加わる。そんな感じで盛り上がっていたとき、突然呼びかける声が響いた。
「芸くん!? 譲二!?」
路上ライブの準備をしていた女の子がサラッとショートカットの黒髪を揺らしてこちらを向いた。高さを調整していたらしいマイクスタンドをそのままにして駆け寄ってくる。
「レイコ……!」
「レイコちゃん!」
木下は顔を真っ赤にして固まっている。清水谷くんも驚いた表情で駆け寄ってくる子を見つめていた。この前清水谷くんが言っていたえりに似ているという「レイコちゃん」らしい。顔自体はそこまで似ていないみたいけど、体型とか全体の印象がたしかに似ている。レイコちゃんは駆け寄ってくると懐かしそうに言った。
「三年ぶりかな? 二人とも元気だった? いまみんなこっちにいるんだね!」
「うん、俺らは大学がこっちなんだ。レイコちゃんがいるなんてびっくりしたよ。髪切っちゃったんだね」
清水谷くんもニコニコと応じる。
「私あのころいろいろあってさ、学校やめて逃げちゃった。こっちにいる友達頼って来てね。今はバンドとアルバイトしながら一人で暮らしてるんだ」
ちょっと寂しそうな顔でレイコちゃんが言う。
「そうだよお前連絡もなくいなくなってさ! なんか言っていけよ」
そこで初めて木下が口を開いた。ちょっと怒ったような、ふざけたような口調だけどレイコちゃんを見つめる目は真剣だった。
「えへへ、ごめんね」
レイコちゃんも茶化すような言い方で答えた。でも木下を見つめ返す目は真剣だった。
「あ、デート中だよね。邪魔してごめんね。また連絡するから。あと三十分でライブ始まるからよかったら見てね」
二人に漂った微妙な空気を振り払うように、レイコちゃんはそう切り出すと二人と連絡先を交換して戻って行った。
「声とか、雰囲気とか、えりちゃんに似てるね。あれで髪長かったらそっくり」
レイコちゃんの後ろ姿を見送りながら、独り言のように実花がつぶやいた。
22へ
「充電式のアンプかぁ。俺も買おうかな」
「木下路上ライブなんかするの? ベース一本で? はなわ?」
すかさず実花が突っ込みを入れる。
「俺だってギターぐらい弾けるよ。ていうかミドルガーデンでやるかもしれないだろ」
「あんなうるさい曲ばっかのバンド路上で出来ねえよ」
清水谷くんも苦笑いで会話に加わる。そんな感じで盛り上がっていたとき、突然呼びかける声が響いた。
「芸くん!? 譲二!?」
路上ライブの準備をしていた女の子がサラッとショートカットの黒髪を揺らしてこちらを向いた。高さを調整していたらしいマイクスタンドをそのままにして駆け寄ってくる。
「レイコ……!」
「レイコちゃん!」
木下は顔を真っ赤にして固まっている。清水谷くんも驚いた表情で駆け寄ってくる子を見つめていた。この前清水谷くんが言っていたえりに似ているという「レイコちゃん」らしい。顔自体はそこまで似ていないみたいけど、体型とか全体の印象がたしかに似ている。レイコちゃんは駆け寄ってくると懐かしそうに言った。
「三年ぶりかな? 二人とも元気だった? いまみんなこっちにいるんだね!」
「うん、俺らは大学がこっちなんだ。レイコちゃんがいるなんてびっくりしたよ。髪切っちゃったんだね」
清水谷くんもニコニコと応じる。
「私あのころいろいろあってさ、学校やめて逃げちゃった。こっちにいる友達頼って来てね。今はバンドとアルバイトしながら一人で暮らしてるんだ」
ちょっと寂しそうな顔でレイコちゃんが言う。
「そうだよお前連絡もなくいなくなってさ! なんか言っていけよ」
そこで初めて木下が口を開いた。ちょっと怒ったような、ふざけたような口調だけどレイコちゃんを見つめる目は真剣だった。
「えへへ、ごめんね」
レイコちゃんも茶化すような言い方で答えた。でも木下を見つめ返す目は真剣だった。
「あ、デート中だよね。邪魔してごめんね。また連絡するから。あと三十分でライブ始まるからよかったら見てね」
二人に漂った微妙な空気を振り払うように、レイコちゃんはそう切り出すと二人と連絡先を交換して戻って行った。
「声とか、雰囲気とか、えりちゃんに似てるね。あれで髪長かったらそっくり」
レイコちゃんの後ろ姿を見送りながら、独り言のように実花がつぶやいた。
22へ
いびつなハート22 クリスマス4
「さっきの子、レイコっていって俺と清水谷の地元の知り合いでさ、今日偶然四年ぶりぐらいに会ったんだけど。今から路上ライブやるみたいで……急だけどちょっと見ていきたいんだけどいい?」
いつになく申し訳なさそうに木下が私たちに聞いた。
「もちろん、かまわんよ」
ちょっとふざけて実花が答える。私ももちろんOK、ということで路上ライブを見ていくことになった。
レイコちゃんのバンドは「ダークチェリー」というバンドで、レイコちゃんはギターボーカル、その他のメンバーは皆男の子だ。演奏が始まるとレイコちゃんの力強い声がPランド全体に響いた。曲は軽快なものからバラードまで幅広い。
「……演奏うまいな」
「……うまいね。本格的にやってるんだね」
私にはわからなかったけど、木下と清水谷くんは演奏のレベルの高さに驚いたようだ。自分たちと比べてちょっと悔しいみたいだ。私と実花そっちのけで真剣に演奏を聴いてはぽつぽつと話し合っている。
実花はなんとなく、いろんなことを感じとったらしい。黙って演奏に聴き入っている。
私はというと、じっくりと聴けば聴くほど、レイコちゃんの歌が素晴らしいので、いろいろ考えるのをやめて演奏を堪能していた。
「ダークチェリーでした。ありがとうございました!」
レイコちゃんの締めの一言で路上ライブが終わった。ぱらぱらと拍手が鳴り出し次第に大きくなっていった。私達も大きく拍手する。
「ごめんね、急に止まっちゃって。行こうか」
拍手が治まると、清水谷くんがそう切り出した。辺りを見ると少しずつ日が翳り始めていた。
「ううん、大丈夫。すごくよかった。ね、実花?」
「うん、もともとこうゆうの嫌いじゃないし!」
実花もにっこりと答えた。
「ところで今からあれ、乗らない?」
実花が大きな観覧車を指差していった。
「そろそろイルミネーションも点くし、綺麗だよ」
全員賛成で乗り場にいくと、さすがにクリスマスの夜とあって、長蛇の列ができていた。チケットを買って乗り場まで続く鉄骨の階段に並ぶ。
さすがに日が翳ってくると冷えてきた。少しだけ列から外れ、階段の手すりに両腕を掛け、遠く夕日に染まった空を見ながら冬の昼は短いなあ、とか考えていると、実花がこそこそ声で話しかけてきた。
「あのさ、ここの観覧車四人乗りだけど、私木下と二人で乗りたい」
まあ、何人乗りでもそうなるだろうと思っていたけど。ちょっと清水谷くんと二人っきりは緊張するなあと思いつつ、ここは実花のため一肌脱ぐことにする。
「了解。先に木下引っ張って乗っちゃって」
こくこくと実花が頷きながら列に戻っていく。私もあとに続く。
私たちの順番が来るころには、あたりはすっかり薄暗くなっていた。イルミネーションも点灯し始めたようだ。実花と木下がひとつ前のゴンドラに乗って離れていった。手を振って見送ると、私と清水谷くんもゴンドラに乗った。
23へ
いつになく申し訳なさそうに木下が私たちに聞いた。
「もちろん、かまわんよ」
ちょっとふざけて実花が答える。私ももちろんOK、ということで路上ライブを見ていくことになった。
レイコちゃんのバンドは「ダークチェリー」というバンドで、レイコちゃんはギターボーカル、その他のメンバーは皆男の子だ。演奏が始まるとレイコちゃんの力強い声がPランド全体に響いた。曲は軽快なものからバラードまで幅広い。
「……演奏うまいな」
「……うまいね。本格的にやってるんだね」
私にはわからなかったけど、木下と清水谷くんは演奏のレベルの高さに驚いたようだ。自分たちと比べてちょっと悔しいみたいだ。私と実花そっちのけで真剣に演奏を聴いてはぽつぽつと話し合っている。
実花はなんとなく、いろんなことを感じとったらしい。黙って演奏に聴き入っている。
私はというと、じっくりと聴けば聴くほど、レイコちゃんの歌が素晴らしいので、いろいろ考えるのをやめて演奏を堪能していた。
「ダークチェリーでした。ありがとうございました!」
レイコちゃんの締めの一言で路上ライブが終わった。ぱらぱらと拍手が鳴り出し次第に大きくなっていった。私達も大きく拍手する。
「ごめんね、急に止まっちゃって。行こうか」
拍手が治まると、清水谷くんがそう切り出した。辺りを見ると少しずつ日が翳り始めていた。
「ううん、大丈夫。すごくよかった。ね、実花?」
「うん、もともとこうゆうの嫌いじゃないし!」
実花もにっこりと答えた。
「ところで今からあれ、乗らない?」
実花が大きな観覧車を指差していった。
「そろそろイルミネーションも点くし、綺麗だよ」
全員賛成で乗り場にいくと、さすがにクリスマスの夜とあって、長蛇の列ができていた。チケットを買って乗り場まで続く鉄骨の階段に並ぶ。
さすがに日が翳ってくると冷えてきた。少しだけ列から外れ、階段の手すりに両腕を掛け、遠く夕日に染まった空を見ながら冬の昼は短いなあ、とか考えていると、実花がこそこそ声で話しかけてきた。
「あのさ、ここの観覧車四人乗りだけど、私木下と二人で乗りたい」
まあ、何人乗りでもそうなるだろうと思っていたけど。ちょっと清水谷くんと二人っきりは緊張するなあと思いつつ、ここは実花のため一肌脱ぐことにする。
「了解。先に木下引っ張って乗っちゃって」
こくこくと実花が頷きながら列に戻っていく。私もあとに続く。
私たちの順番が来るころには、あたりはすっかり薄暗くなっていた。イルミネーションも点灯し始めたようだ。実花と木下がひとつ前のゴンドラに乗って離れていった。手を振って見送ると、私と清水谷くんもゴンドラに乗った。
23へ
いびつなハート23 クリスマス5
ゴンドラに乗り込み、横の窓から外を覗きこんだ。
外はもう暗く、うっすらと白い月が浮かんでいて、遠くの空の夕焼けの赤みも今はほとんど消えていた。地上ではイルミネーションのライトがちかちかと点灯している。
しばし外の景色に見とれて無言になっていた。清水谷くんも、向かい側に座って私が覗きこんでいる側の窓から同じように外の景色を眺めていた。
ふと清水谷くんが外を見たままつぶやいた。沈黙が破られる。
「ばればれだよな」
「え、なにが?」
唐突な一言に反応して清水谷くんのほうを向いた。
「実花ちゃん、木下のことすごい好きでしょ」
それを聞いてなんだ、と思わず笑みがこぼれる。また窓の外に目を移した。
「まあね、もう入学してすぐぐらいからあんな感じだね。でもはっきり好きだって言ってるのは私は聞いたことないけど」
「そうなんだ」
清水谷くんはちょっと驚いたような意外そうな反応をする。
「でも今、もしかして告白の真っ最中かもね。さっき観覧車は二人にしてって言われたし」
と言って思わずにやにや笑いをした。清水谷くんはふぅ、と一呼吸おくと、窓から離れしっかり真正面を向き
「それは俺にとっても好都合だったな」
と言って真顔になった。私もにやにやから一転、つられて真面目な顔になる。
「あきちゃん、彼氏はいないよね? 好きなやつとかいるの?」
結構単刀直入だ。まあ好きな人いるといえばいるんだろうか。加川くんの顔が浮かんだ。でも……。返事ができずにまごついていると、清水谷くんが続ける。
「もうわかってると思うけど、俺あきちゃんのこと好きだよ」
まっすぐに視線を合わせてきて、そらすこともできない。いつものような優しい表情からは遠い、真剣な顔つきだ。
「ごめん私……」
何と言っていいか分からず、でも返事をしようと答えかかると、それを遮るように清水谷くんがまた言葉をつなぐ。
「気になるやつがいるんじゃないかなってなんとなく思ってた。ちがう?」
少しためらって、うなずく。加川くんのこと好きだ。でも恋人になる見込みがあるかといわれれば多分ノーだろう。清水谷くんのことも好きだけど、加川くんに対するような情熱があるかといえばノーだ。加川くんにとらわれている今の自分では清水谷くんと真剣に向き合うことはできない。でも清水谷くんの好意に甘えたい気持ちも素直にあって、ここで結論を出したくなかった。ずるいかもしれないけど。
「今日は好きって伝えたかっただけだから。考えといて」
ぐるぐると思考を巡らせていると清水谷くんがそう言った
「うん、ごめんね」
そういうと、清水谷くんはにっこり笑った。そして思い出したように言った。
「さて、あの二人はどうなったかな」
24へ
外はもう暗く、うっすらと白い月が浮かんでいて、遠くの空の夕焼けの赤みも今はほとんど消えていた。地上ではイルミネーションのライトがちかちかと点灯している。
しばし外の景色に見とれて無言になっていた。清水谷くんも、向かい側に座って私が覗きこんでいる側の窓から同じように外の景色を眺めていた。
ふと清水谷くんが外を見たままつぶやいた。沈黙が破られる。
「ばればれだよな」
「え、なにが?」
唐突な一言に反応して清水谷くんのほうを向いた。
「実花ちゃん、木下のことすごい好きでしょ」
それを聞いてなんだ、と思わず笑みがこぼれる。また窓の外に目を移した。
「まあね、もう入学してすぐぐらいからあんな感じだね。でもはっきり好きだって言ってるのは私は聞いたことないけど」
「そうなんだ」
清水谷くんはちょっと驚いたような意外そうな反応をする。
「でも今、もしかして告白の真っ最中かもね。さっき観覧車は二人にしてって言われたし」
と言って思わずにやにや笑いをした。清水谷くんはふぅ、と一呼吸おくと、窓から離れしっかり真正面を向き
「それは俺にとっても好都合だったな」
と言って真顔になった。私もにやにやから一転、つられて真面目な顔になる。
「あきちゃん、彼氏はいないよね? 好きなやつとかいるの?」
結構単刀直入だ。まあ好きな人いるといえばいるんだろうか。加川くんの顔が浮かんだ。でも……。返事ができずにまごついていると、清水谷くんが続ける。
「もうわかってると思うけど、俺あきちゃんのこと好きだよ」
まっすぐに視線を合わせてきて、そらすこともできない。いつものような優しい表情からは遠い、真剣な顔つきだ。
「ごめん私……」
何と言っていいか分からず、でも返事をしようと答えかかると、それを遮るように清水谷くんがまた言葉をつなぐ。
「気になるやつがいるんじゃないかなってなんとなく思ってた。ちがう?」
少しためらって、うなずく。加川くんのこと好きだ。でも恋人になる見込みがあるかといわれれば多分ノーだろう。清水谷くんのことも好きだけど、加川くんに対するような情熱があるかといえばノーだ。加川くんにとらわれている今の自分では清水谷くんと真剣に向き合うことはできない。でも清水谷くんの好意に甘えたい気持ちも素直にあって、ここで結論を出したくなかった。ずるいかもしれないけど。
「今日は好きって伝えたかっただけだから。考えといて」
ぐるぐると思考を巡らせていると清水谷くんがそう言った
「うん、ごめんね」
そういうと、清水谷くんはにっこり笑った。そして思い出したように言った。
「さて、あの二人はどうなったかな」
24へ
いびつなハート24 クリスマス6
観覧車は一周のうちの半分以上を過ぎて、乗り場からは反対側に当たる海側が見渡せる位置に来ていた。ちょうど清水谷くんの背中の窓から、海側の夜景が見える。すっかり暗くなった海の向こう側が明るく光っている。湾の向こう側の街の明かりが見えるのだ。左側のふ頭からはオレンジの明りをつけたフェリーが出入りしていた。
私は窓の外を指して言った。
「見てみて、窓の外すごい夜景きれいだよ」
清水谷くんも振り返るとおお、と声を上げた。
「海側のほうが遊園地のイルミネーションよりきれいだね。こっちに座ってると見にくいな。そっちに座ってもいい?」
「うん、……でも重さが偏ってゴンドラ引っくり返るかも?」
私がふざけて言うと清水谷くんもくすりと笑って
「試してみようか。勢いよく座ったら一回転するかもね」
そういって立ち上がった。私は清水谷くんが座れるよう横に詰めた。そこに清水谷くんが勢いをつけてお尻からドスン、と座る。ゴンドラは私の予想以上にぐらぐらと揺れ、少しだけ傾いて静止した。思わず清水谷くんのコートにつかまっていたことに気づく。清水谷くんもそれに気づくと
「僥倖、僥倖」
と言ってニコニコした。私は少し照れる。
告白されて、答えを濁したとはいえ、現時点では断ったようなものだというのに、清水谷くんとは気まずい雰囲気もなく、逆に打ち解けたような雰囲気になっていた。心なしか清水谷くんもすっきりとした表情になった気がする。
そうしてゴンドラは出発地点に戻ってきた。先に降りて出口で待っている木下と実花に合流する。二人は一見乗る前と何の変化もないようだった。でも私には何となくわかってしまった。二人の間のほんの数センチの空気に、実花の行き場がないように不自然に下ろされた右手に、観覧車での二人がどうだったかが察せられた。
「さあ、そろそろ帰ろうか」
大きな声で、元気よく実花が言った。空元気を出しているみたいでなんとなく不自然だった。
「そうだ! 今日はあきの家にほんとにとまっていい?」
また明るく実花がいった。
「珍しいじゃん、いつもオールするときにのアリバイ作りなのに」
木下が茶化して言う。その様子もいつも通りなのだけどどことなくぎこちないような気がした。
「いいよ。じゃあ今日は実花はうちにお泊りね」
「じゃあ、まずあきんちに二人送ってくわ」
などと話しながら出口に向かって歩き出す。
クリスマスのPランドはまだまだ閉園する気配もなくたくさんの人で賑わっていた。不意に後ろからドーンという音がして振り返ると花火が上がっていた。私たちもだれともなく足を止めて花火に見入っていた。
クリスマス特製なのか、白とピンクの二重のハートが幾重にも上り、冬の空にパラパラと散っていった。
24へ
私は窓の外を指して言った。
「見てみて、窓の外すごい夜景きれいだよ」
清水谷くんも振り返るとおお、と声を上げた。
「海側のほうが遊園地のイルミネーションよりきれいだね。こっちに座ってると見にくいな。そっちに座ってもいい?」
「うん、……でも重さが偏ってゴンドラ引っくり返るかも?」
私がふざけて言うと清水谷くんもくすりと笑って
「試してみようか。勢いよく座ったら一回転するかもね」
そういって立ち上がった。私は清水谷くんが座れるよう横に詰めた。そこに清水谷くんが勢いをつけてお尻からドスン、と座る。ゴンドラは私の予想以上にぐらぐらと揺れ、少しだけ傾いて静止した。思わず清水谷くんのコートにつかまっていたことに気づく。清水谷くんもそれに気づくと
「僥倖、僥倖」
と言ってニコニコした。私は少し照れる。
告白されて、答えを濁したとはいえ、現時点では断ったようなものだというのに、清水谷くんとは気まずい雰囲気もなく、逆に打ち解けたような雰囲気になっていた。心なしか清水谷くんもすっきりとした表情になった気がする。
そうしてゴンドラは出発地点に戻ってきた。先に降りて出口で待っている木下と実花に合流する。二人は一見乗る前と何の変化もないようだった。でも私には何となくわかってしまった。二人の間のほんの数センチの空気に、実花の行き場がないように不自然に下ろされた右手に、観覧車での二人がどうだったかが察せられた。
「さあ、そろそろ帰ろうか」
大きな声で、元気よく実花が言った。空元気を出しているみたいでなんとなく不自然だった。
「そうだ! 今日はあきの家にほんとにとまっていい?」
また明るく実花がいった。
「珍しいじゃん、いつもオールするときにのアリバイ作りなのに」
木下が茶化して言う。その様子もいつも通りなのだけどどことなくぎこちないような気がした。
「いいよ。じゃあ今日は実花はうちにお泊りね」
「じゃあ、まずあきんちに二人送ってくわ」
などと話しながら出口に向かって歩き出す。
クリスマスのPランドはまだまだ閉園する気配もなくたくさんの人で賑わっていた。不意に後ろからドーンという音がして振り返ると花火が上がっていた。私たちもだれともなく足を止めて花火に見入っていた。
クリスマス特製なのか、白とピンクの二重のハートが幾重にも上り、冬の空にパラパラと散っていった。
24へ
いびつなハート25 夢のあとさき
花火が終わってから帰り道のファミレスでご飯を食べて、私の家まで送ってもらった。
「じゃあね、ありがと。お疲れ様」
実花と私が口ぐちにそう言って車を降りると、木下はいつものようにおおぅ、と気の抜けた返事で応対し、清水谷くんはニコッと笑ってうなずいた。
部屋に実花を通すとさっと片づけて、炬燵を畳むと、ベッドの横に布団を敷くスペースを確保する。
「おじゃましまーす」
と言って実花が遠慮がちに部屋に入ってくる。
「お布団敷くから、先にシャワーでもどう?そこのドアがお風呂。」
そう言ってタオルと適当な部屋着を渡すと
「ではお言葉に甘えまして。いやあ至れり尽くせりだねえ」
と軽口を叩いてお風呂場に入って行った。間もなくシャワーの音が響く。その間に来客用の布団を敷いて、小さいテーブルを出す。さっき点けたエアコンのおかげで部屋が徐々に温まってきている。それでもこの安アパートでは寒さをしのぐには不十分で、特に床に敷いた布団は冷えるものだ。ストーブを出してきてつける。これでレンジでもつけたらブレーカーが落ちそうだ。
冷蔵庫を物色するとコンビニの福引で当たったスパークリングワインがあった。アルコール八パーセント、うっすらピンク色。当たったことすらすっかり忘れていたけどちょうどよかった。買いおきの袋菓子とプラスチックコップと一緒にテーブルに置いた。
テレビをつけてぼーっとして、ふと携帯を見るとメール着信のお知らせメールが来ていた。
「きょうはおつかれ。たのしかった」
清水谷くんだった。また短いメール。でもなんとなくほっと安心する感じがした。
「おつかれ。たのしかったね。またどこかいこう」
そう簡単に返事を送ってテレビをみていると、私の部屋着を着た実花がお風呂から出てきた。
「お先にいただきました。ん? どうしたのにこにこして?」
知らないうちににやけていたようだ。恥ずかしくなってそそくさと席を立つ。
「な、なんでもない。お風呂行ってくる。よかったらそこのお酒飲んでて」
「へんなの。でもまあ、いただいてます」
シャワーを浴びて出ると実花が布団を膝にかけて、テレビを見ながらちびちびとワインをのんでいた。すでに耳が心持ち赤い。私もベッドに座る。実花がコップにワインを注いでくれた。
「今日さ、木下に好きって言った。付き合ってって」
唐突に実花が言った。視線はテレビに向けたままだ。
「観覧車で?」
「そう」
「そうかなっておもった。で、木下なんだって?」
実花がこちらにまっすぐ視線を移す。
「よくわかんないって」
「え?」
「最近いろいろあってよくわかんないって。おまえのことは嫌いじゃないけど今は付き合えないって」
最近いろいろあってっていうのはレイコちゃんのことなんだろう。ちょっとタイミングが悪かったかもしれない。私は清水谷くんに聞いたことも交えて、レイコちゃんの話をした。地元で仲が良かったこと、木下たちの前から突然いなくなったこと、えりちゃんに似ていて、木下がえりちゃんに会ったとき明らかに動揺してたこと、そんな彼女に今日再開したこと。
「でもさ、大学入ってからいままでずっとそばにいたのにさ、そんなずっと会ってなかった子に負けるのかな」
実花がだんだん泣き調子になってくる。
「でも振られたわけじゃないしまだ負けてないよ、でしょ?」
「とりあえず今まで通りでいたいって言われた」
「今までだって普通の友達よりはかなり仲いいんだから」
一生懸命励ますと実花もだんだん表情が明るくなって来た。
「うん、まだあきらめないよ! ……ところであきはさあ、どうだったの?」
矛先がこっちに向いてしまった。
「ええっと、好きって言われたけど……保留」
「何保留って! ……まあ、まだちゃんと話すようになって数日だもんねえ」
実花は仕方ないか、というようにうなずいた。他の理由には思い当たらないらしい。
そのままワインを飲みながらいろいろな話をした。主には実花がいかに木下を好きかみたいな話だったけど。そして二人とも眠くなってきたので、電気を消してそのまま寝る態勢になってぽつぽつと話していた。
「レイコちゃんってかわいくて歌もうまくてさ、やっぱ木下も音楽やってるからああゆう才能に魅かれるみたいなとこあるのかな……」
半分眠っているような声で実花がつぶやいた。恋する悩める乙女だ。
「そうゆうのもあるかもしれないけど、実花には実花の良さがあるんだから。大丈夫」
私も失いかけの意識の中で答える。
「こんなふうにあきとふたりでゆっくり話したの初めてだね、よかった」
「私も」
そう言って二人でふふふ、と笑うと多分二人とも同時に眠りに落ちて行った。
26へ
「じゃあね、ありがと。お疲れ様」
実花と私が口ぐちにそう言って車を降りると、木下はいつものようにおおぅ、と気の抜けた返事で応対し、清水谷くんはニコッと笑ってうなずいた。
部屋に実花を通すとさっと片づけて、炬燵を畳むと、ベッドの横に布団を敷くスペースを確保する。
「おじゃましまーす」
と言って実花が遠慮がちに部屋に入ってくる。
「お布団敷くから、先にシャワーでもどう?そこのドアがお風呂。」
そう言ってタオルと適当な部屋着を渡すと
「ではお言葉に甘えまして。いやあ至れり尽くせりだねえ」
と軽口を叩いてお風呂場に入って行った。間もなくシャワーの音が響く。その間に来客用の布団を敷いて、小さいテーブルを出す。さっき点けたエアコンのおかげで部屋が徐々に温まってきている。それでもこの安アパートでは寒さをしのぐには不十分で、特に床に敷いた布団は冷えるものだ。ストーブを出してきてつける。これでレンジでもつけたらブレーカーが落ちそうだ。
冷蔵庫を物色するとコンビニの福引で当たったスパークリングワインがあった。アルコール八パーセント、うっすらピンク色。当たったことすらすっかり忘れていたけどちょうどよかった。買いおきの袋菓子とプラスチックコップと一緒にテーブルに置いた。
テレビをつけてぼーっとして、ふと携帯を見るとメール着信のお知らせメールが来ていた。
「きょうはおつかれ。たのしかった」
清水谷くんだった。また短いメール。でもなんとなくほっと安心する感じがした。
「おつかれ。たのしかったね。またどこかいこう」
そう簡単に返事を送ってテレビをみていると、私の部屋着を着た実花がお風呂から出てきた。
「お先にいただきました。ん? どうしたのにこにこして?」
知らないうちににやけていたようだ。恥ずかしくなってそそくさと席を立つ。
「な、なんでもない。お風呂行ってくる。よかったらそこのお酒飲んでて」
「へんなの。でもまあ、いただいてます」
シャワーを浴びて出ると実花が布団を膝にかけて、テレビを見ながらちびちびとワインをのんでいた。すでに耳が心持ち赤い。私もベッドに座る。実花がコップにワインを注いでくれた。
「今日さ、木下に好きって言った。付き合ってって」
唐突に実花が言った。視線はテレビに向けたままだ。
「観覧車で?」
「そう」
「そうかなっておもった。で、木下なんだって?」
実花がこちらにまっすぐ視線を移す。
「よくわかんないって」
「え?」
「最近いろいろあってよくわかんないって。おまえのことは嫌いじゃないけど今は付き合えないって」
最近いろいろあってっていうのはレイコちゃんのことなんだろう。ちょっとタイミングが悪かったかもしれない。私は清水谷くんに聞いたことも交えて、レイコちゃんの話をした。地元で仲が良かったこと、木下たちの前から突然いなくなったこと、えりちゃんに似ていて、木下がえりちゃんに会ったとき明らかに動揺してたこと、そんな彼女に今日再開したこと。
「でもさ、大学入ってからいままでずっとそばにいたのにさ、そんなずっと会ってなかった子に負けるのかな」
実花がだんだん泣き調子になってくる。
「でも振られたわけじゃないしまだ負けてないよ、でしょ?」
「とりあえず今まで通りでいたいって言われた」
「今までだって普通の友達よりはかなり仲いいんだから」
一生懸命励ますと実花もだんだん表情が明るくなって来た。
「うん、まだあきらめないよ! ……ところであきはさあ、どうだったの?」
矛先がこっちに向いてしまった。
「ええっと、好きって言われたけど……保留」
「何保留って! ……まあ、まだちゃんと話すようになって数日だもんねえ」
実花は仕方ないか、というようにうなずいた。他の理由には思い当たらないらしい。
そのままワインを飲みながらいろいろな話をした。主には実花がいかに木下を好きかみたいな話だったけど。そして二人とも眠くなってきたので、電気を消してそのまま寝る態勢になってぽつぽつと話していた。
「レイコちゃんってかわいくて歌もうまくてさ、やっぱ木下も音楽やってるからああゆう才能に魅かれるみたいなとこあるのかな……」
半分眠っているような声で実花がつぶやいた。恋する悩める乙女だ。
「そうゆうのもあるかもしれないけど、実花には実花の良さがあるんだから。大丈夫」
私も失いかけの意識の中で答える。
「こんなふうにあきとふたりでゆっくり話したの初めてだね、よかった」
「私も」
そう言って二人でふふふ、と笑うと多分二人とも同時に眠りに落ちて行った。
26へ
いびつなハート26 God Bless
年末は実家に帰って過ごし、新年が明けると学校が始まるより少し早目にアパートに戻ってきた。
誰にも気兼ねせず、お昼に起きてコーヒーを入れ、炬燵に入る。実家を出て四月で丸二年になるけれど、実家にいる時よりも一人でアパートで過ごすほうが落ち着くようになってきた。のんびりコーヒーを飲んでいると、炬燵の上の携帯が鳴った。木下だった。
「もしもし」
「あ、俺俺。あけおめ。もう戻ってる?」
今年も相変わらずハイテンションだ。声のトーンが嫌というほど高い。
「おめでとう。戻ってるよ。どうしたの?」
「初詣行こうぜ。学校の裏の神社あるじゃん? 今家近い奴に声かけてんの」
「お、いいね。で、誰誘ったの?」
「実花誘ったんだけどまだ親の実家にいるってさ。あと尾崎と、加川」
どきん、と心臓が跳ねる。電話越しに伝わってしまうんじゃないかと思うぐらい動揺していた。木下はそんな私の様子には気付かないようだ。
「じゃあ五時に神社な」
そう言って電話を切ってしまった。いきなり電話してきて、騒々しい奴だ。
久しぶりに加川くんに会えると思うと胸のあたりがほわっと暖かくなって、同時に落ち着かなくなった。実花や清水谷くんの想いに中てられたのか、年末からずっと加川くんに会いたかった。でも私は加川くんの携帯を知らなかったし、家にいきなり押し掛けるほどかというとそれも違っていた。まだ二時前だったけど、私は出掛ける準備を始めた。
五時少し前に神社の前に行くと、すでに木下と尾崎くんが居た。加川くんはまだ来ていないようだ。木下が私に気付くとおう、といつものようにぶっきらぼうに挨拶した。尾崎くんも気付いて、お互いにおめでとう、と新年らしい挨拶をする。
「それかぶってきたんだ」
清水谷くんが買ってくれた茶色いチェックのキャスケットを指して木下が言う。
「うん、気に入ってるから」
そう言うと木下はにやにやとちょっと意地悪な笑みを浮かべた。
誰からともなくそれぞれの年末年始の話をする。尾崎くんがお雑煮の地域差について語っているところで加川くんが歩いてくるのが見えた。
「その帽子!」
私は加川くんを見て挨拶より先にそんな言葉が口を衝いて出た。加川くんも目を丸くして私の帽子を見ている。加川くんもチェックのキャスケットをかぶっていたのだ。私のよりも少し暗い茶色で、形も平たいけど、そっくりだ。
「おまえら、カブりすぎだぞ。帽子だけに」
木下がくだらないことをいう。
「俺はもうずっと前からこれ愛用してんだよ。カブってきたのは萱野でしょ」
「私加川くんがそれかぶってんの初めて見たし、似合うやつ選んでもらったんだもん」
「俺だってこれもらいもんだし」
などとやりあいながら神社に向かう。尾崎くんものんびりした口調で言う。
「その帽子二人ともすごい似合ってるよね。偶然カブったのもわかるよ」
「そう言えばお前らってなんとなく雰囲気似てんのかな」
木下がそんなことを言い出し、ちょっとうれしくなる。でも少しでもうれしいそぶりを見せたら加川くんへの気持ちがばれてしまいそうで、そうかな、と無関心そうにした。加川くんもそうか? とそっけない反応だった。矛盾しているけどちょっとはうれしそうな反応を見たかったような気もした。
鳥居を潜りまっすぐ参道を歩く。拝殿に着くとみんなお賽銭を出した。木下は四十五円、私は十五円、加川くんと尾崎くんは五円玉を出した。
「木下、何で四十五円なの」
私は思わず聞いた。五円はご縁の語呂合わせだから、加川くんと尾崎くんはわかる。
「始終ご縁がありますようにだろ」
「うわ、始終って欲張りだね」
「俺も四十五円にしよ」
木下の解説を聞いて尾崎くんが十円玉を出す。
「ゲンキンだね。お金のことだけに」
また木下がくだらないことを言ったので、無視してさっさとお参りすることにした。
手を合わせて目を閉じる。無事進級できますように、とかいろいろお願い事はあったけど、最後に加川くんともっと近くなれますように、と強くお祈りした。
目を開けるともうみんなお祈りを終わっていた。顔を覗き込んでいた加川くんと目が合いドキッとする。親指で後ろを指して
「飲みに行くってさ」
と言って先に歩きだした。私もキャスケット帽の加川くんのあとを追って歩き始めた。

27へ
誰にも気兼ねせず、お昼に起きてコーヒーを入れ、炬燵に入る。実家を出て四月で丸二年になるけれど、実家にいる時よりも一人でアパートで過ごすほうが落ち着くようになってきた。のんびりコーヒーを飲んでいると、炬燵の上の携帯が鳴った。木下だった。
「もしもし」
「あ、俺俺。あけおめ。もう戻ってる?」
今年も相変わらずハイテンションだ。声のトーンが嫌というほど高い。
「おめでとう。戻ってるよ。どうしたの?」
「初詣行こうぜ。学校の裏の神社あるじゃん? 今家近い奴に声かけてんの」
「お、いいね。で、誰誘ったの?」
「実花誘ったんだけどまだ親の実家にいるってさ。あと尾崎と、加川」
どきん、と心臓が跳ねる。電話越しに伝わってしまうんじゃないかと思うぐらい動揺していた。木下はそんな私の様子には気付かないようだ。
「じゃあ五時に神社な」
そう言って電話を切ってしまった。いきなり電話してきて、騒々しい奴だ。
久しぶりに加川くんに会えると思うと胸のあたりがほわっと暖かくなって、同時に落ち着かなくなった。実花や清水谷くんの想いに中てられたのか、年末からずっと加川くんに会いたかった。でも私は加川くんの携帯を知らなかったし、家にいきなり押し掛けるほどかというとそれも違っていた。まだ二時前だったけど、私は出掛ける準備を始めた。
五時少し前に神社の前に行くと、すでに木下と尾崎くんが居た。加川くんはまだ来ていないようだ。木下が私に気付くとおう、といつものようにぶっきらぼうに挨拶した。尾崎くんも気付いて、お互いにおめでとう、と新年らしい挨拶をする。
「それかぶってきたんだ」
清水谷くんが買ってくれた茶色いチェックのキャスケットを指して木下が言う。
「うん、気に入ってるから」
そう言うと木下はにやにやとちょっと意地悪な笑みを浮かべた。
誰からともなくそれぞれの年末年始の話をする。尾崎くんがお雑煮の地域差について語っているところで加川くんが歩いてくるのが見えた。
「その帽子!」
私は加川くんを見て挨拶より先にそんな言葉が口を衝いて出た。加川くんも目を丸くして私の帽子を見ている。加川くんもチェックのキャスケットをかぶっていたのだ。私のよりも少し暗い茶色で、形も平たいけど、そっくりだ。
「おまえら、カブりすぎだぞ。帽子だけに」
木下がくだらないことをいう。
「俺はもうずっと前からこれ愛用してんだよ。カブってきたのは萱野でしょ」
「私加川くんがそれかぶってんの初めて見たし、似合うやつ選んでもらったんだもん」
「俺だってこれもらいもんだし」
などとやりあいながら神社に向かう。尾崎くんものんびりした口調で言う。
「その帽子二人ともすごい似合ってるよね。偶然カブったのもわかるよ」
「そう言えばお前らってなんとなく雰囲気似てんのかな」
木下がそんなことを言い出し、ちょっとうれしくなる。でも少しでもうれしいそぶりを見せたら加川くんへの気持ちがばれてしまいそうで、そうかな、と無関心そうにした。加川くんもそうか? とそっけない反応だった。矛盾しているけどちょっとはうれしそうな反応を見たかったような気もした。
鳥居を潜りまっすぐ参道を歩く。拝殿に着くとみんなお賽銭を出した。木下は四十五円、私は十五円、加川くんと尾崎くんは五円玉を出した。
「木下、何で四十五円なの」
私は思わず聞いた。五円はご縁の語呂合わせだから、加川くんと尾崎くんはわかる。
「始終ご縁がありますようにだろ」
「うわ、始終って欲張りだね」
「俺も四十五円にしよ」
木下の解説を聞いて尾崎くんが十円玉を出す。
「ゲンキンだね。お金のことだけに」
また木下がくだらないことを言ったので、無視してさっさとお参りすることにした。
手を合わせて目を閉じる。無事進級できますように、とかいろいろお願い事はあったけど、最後に加川くんともっと近くなれますように、と強くお祈りした。
目を開けるともうみんなお祈りを終わっていた。顔を覗き込んでいた加川くんと目が合いドキッとする。親指で後ろを指して
「飲みに行くってさ」
と言って先に歩きだした。私もキャスケット帽の加川くんのあとを追って歩き始めた。

27へいびつなハート 27 つのる想い
「俺らどうせみんな家近いんだからさ、家飲みにしようぜ」
神社から駅に向かって歩く道すがら、木下がそう言いだした。
「じゃあ言い出しっぺの木下の家に行こうよ」
尾崎くんが言い、私と加川くんが賛成した。
「俺んちかよ。汚いけど我慢しろよ。俺バイクだから先行くぞ」
木下は駐輪場のほうに歩きだした。
「木下、おれも後ろに乗せて」
尾崎くんが木下を追いかける。
「じゃあチェック帽組は歩きで来いよ」
そう言うと、木下と尾崎くんは後ろ手で手を振りながら遠ざかって行った。残された加川くんと私は歩きで木下の家に向かう。木下の家はここから十分ほど歩いた学校の近くのアパートだ。私も加川くんも行ったことがあって覚えていた。
久しぶりに会えて、うれしい。二人になるとじわじわとその実感がわいてきた。できればゆっくりゆっくり歩きたい。そう思ったけど加川くんの歩く速度は思いのほか早くて、私は少し早足になる。追いかけるようにして歩いていると、いきなり加川くんが立ち止まった。勢いが付いていた私はぶつかりそうになる。急に加川くんとの距離が縮まる。加川くんが私の腕をぎゅっと引き寄せた。直後、すぐ横を車がすり抜けていった。後ろから車が来ていたのに、加川くんの後を付いていくのに必死で気付かなかったみたいだ。
「危なっかしいなあ」
口の端を上げるいつもの笑い方で、加川くんが言った。つかまれている腕が熱い。心臓がぎゅうとして、顔が火照っているのがわかった。まともに顔が見れない。
「車来るから、こっち」
そう言ってまた腕を引かれ、車通りの少ない横道に入るとき、加川くんの顔が近づいてきて、唇が触れた。柔らかくて冷たい感触。
「変な顔してるなよ、こうしたくなるだろ」
すぐにそっぽを向いて呟くように言う。
「へ、変な顔はもともとだし」
そう答えながら、今のキスのせいで気持ちがあふれてきて、どうしようもなかった。気持ちを抑えつけるように、力をこめて加川くんの手を握る。
「うわ、つめてっ」
そう言って加川くんも手を握り返してきた。不思議とどきどきが落ち着いてくる。気持ちが充電されていく感じだ。
もうすぐ木下の家が見えてくる。加川くんの早足は気付かないうちに私と同じ速度になっていた。
神社から駅に向かって歩く道すがら、木下がそう言いだした。
「じゃあ言い出しっぺの木下の家に行こうよ」
尾崎くんが言い、私と加川くんが賛成した。
「俺んちかよ。汚いけど我慢しろよ。俺バイクだから先行くぞ」
木下は駐輪場のほうに歩きだした。
「木下、おれも後ろに乗せて」
尾崎くんが木下を追いかける。
「じゃあチェック帽組は歩きで来いよ」
そう言うと、木下と尾崎くんは後ろ手で手を振りながら遠ざかって行った。残された加川くんと私は歩きで木下の家に向かう。木下の家はここから十分ほど歩いた学校の近くのアパートだ。私も加川くんも行ったことがあって覚えていた。
久しぶりに会えて、うれしい。二人になるとじわじわとその実感がわいてきた。できればゆっくりゆっくり歩きたい。そう思ったけど加川くんの歩く速度は思いのほか早くて、私は少し早足になる。追いかけるようにして歩いていると、いきなり加川くんが立ち止まった。勢いが付いていた私はぶつかりそうになる。急に加川くんとの距離が縮まる。加川くんが私の腕をぎゅっと引き寄せた。直後、すぐ横を車がすり抜けていった。後ろから車が来ていたのに、加川くんの後を付いていくのに必死で気付かなかったみたいだ。
「危なっかしいなあ」
口の端を上げるいつもの笑い方で、加川くんが言った。つかまれている腕が熱い。心臓がぎゅうとして、顔が火照っているのがわかった。まともに顔が見れない。
「車来るから、こっち」
そう言ってまた腕を引かれ、車通りの少ない横道に入るとき、加川くんの顔が近づいてきて、唇が触れた。柔らかくて冷たい感触。
「変な顔してるなよ、こうしたくなるだろ」
すぐにそっぽを向いて呟くように言う。
「へ、変な顔はもともとだし」
そう答えながら、今のキスのせいで気持ちがあふれてきて、どうしようもなかった。気持ちを抑えつけるように、力をこめて加川くんの手を握る。
「うわ、つめてっ」
そう言って加川くんも手を握り返してきた。不思議とどきどきが落ち着いてくる。気持ちが充電されていく感じだ。
もうすぐ木下の家が見えてくる。加川くんの早足は気付かないうちに私と同じ速度になっていた。
いびつなハート28 バランス
木下の家に着くと、アパートの前にはもうバイクがとまっていた。木下の部屋は三○三号室。おじゃましまーす、と入っていくと、木下はなにやらばたばたと片付けをしていて、尾崎くんはキッチンの小さな冷蔵庫をあさっていた。そんな二人の様子に落ち着かず、しばらくそわそわと立っていると、冷蔵庫の扉の前にしゃがんだ尾崎くんが
「あー木下、おまえんち食べ物なんもねぇな! 酒ばっか!」
といらいらした様子で叫んだ。足元には冷蔵庫から出したらしいビールの缶が並んでいる。
「だって俺家で飯食わないもん」
「まあそうか。よし、買い出しに行こう。誰かついてきて」
尾崎くんの提案に木下と加川くんと私は顔を見合わせる。と同時に木下が
「じゃんけんぽいっ!」
と叫んだ。とっさに木下と私はチョキ、加川くんがパーを出した。
「よし、加川、買い出し組ね」
尾崎くんはそう言うと加川くんを引っ張って買い物に出かけた。
木下は二人を送り出すと、冷蔵庫の前に並んだビールの缶をテーブルにせっせと運び、座布団に座って、隣の座椅子をぽんぽんと叩いた。私は座椅子に座る。
「先に始めてようぜ。今日は紅一点だから座椅子に座らせてやろう」
「それはどうも。じゃあ乾杯」
ぱすんと缶を当てて、乾杯するとビールを飲む。十分に暖かくなった部屋で炬燵に入って飲むよく冷えたビールはおいしかった。
「おまえ清水谷とはどうよ?」
一口飲むと早速木下はこんなことを言い出した。きっと聞きたくてしょうがなかったんだろう。
「どうって、別に。あれから会ってないし。あ、メールはしてるよ」
「あっそ。なんだつまんねえ。この間清水谷に会ったときにこにこしてたからさ」
「ふうん、休み中会ったんだ。そうか、実家の方で?」
「そうそう。清水谷と、……レイコと」
レイコちゃんか……。クリスマスに会った彼女の顔が浮かび、それから泣きそうな実花の顔が浮かんだ
「高校んときよく行ったとことか行ってさ、楽しかった」
木下はちょっと遠くを見て笑みを浮かべながら言った。ビールをごくりと飲む。
「ところで、お前実花からいろいろ聞いてる?」
「うん、まあ、遊園地行ったときにきいた」
「そっか。じゃあお前にこんなこと言ったら、最低なやつだと思われるかもしれないけど……」
そういって木下はビールを一口飲むと一呼吸おいた。
「俺、レイコのこと好きなんだ。もうどうしようもない」
木下は悲しそうな、切なそうななんともいえない顔をしていた。こんな木下の顔は初めて見た様に思う。
「でも実花に言えない。実花の俺への気持ちは伝わってるし、実花に言ったらそれでもいいからっていわれそうで、そしたら俺、実花のこと振り回して傷つけそうでさ」
木下はいつものように私が聞いていなくてもお構いなしという感じで、でも真剣に話していたけれど、私のほうはいつものように気を逸らすことはなかった。木下の言葉の一つ一つが胸にずしずしと響いた。
「実花は一生懸命だからね」
私はあきらめないといった実花の表情を思い出していた。そして今の木下の真剣な表情。二人ともお互いを思いやる気持ちが溢れている。
「でも木下も一生懸命だから。自分の気持ちにはうそはつけないし。心配しなくても悪いようにはならないよ。大丈夫」
私はそういうと木下に向けて思いっきり微笑んだ。
「お前、適当だな」
木下はそう言って私のほっぺたをむにっと摘んで微笑むと、小さい声でうそうそ、ありがとな、と言った。
29へ
「あー木下、おまえんち食べ物なんもねぇな! 酒ばっか!」
といらいらした様子で叫んだ。足元には冷蔵庫から出したらしいビールの缶が並んでいる。
「だって俺家で飯食わないもん」
「まあそうか。よし、買い出しに行こう。誰かついてきて」
尾崎くんの提案に木下と加川くんと私は顔を見合わせる。と同時に木下が
「じゃんけんぽいっ!」
と叫んだ。とっさに木下と私はチョキ、加川くんがパーを出した。
「よし、加川、買い出し組ね」
尾崎くんはそう言うと加川くんを引っ張って買い物に出かけた。
木下は二人を送り出すと、冷蔵庫の前に並んだビールの缶をテーブルにせっせと運び、座布団に座って、隣の座椅子をぽんぽんと叩いた。私は座椅子に座る。
「先に始めてようぜ。今日は紅一点だから座椅子に座らせてやろう」
「それはどうも。じゃあ乾杯」
ぱすんと缶を当てて、乾杯するとビールを飲む。十分に暖かくなった部屋で炬燵に入って飲むよく冷えたビールはおいしかった。
「おまえ清水谷とはどうよ?」
一口飲むと早速木下はこんなことを言い出した。きっと聞きたくてしょうがなかったんだろう。
「どうって、別に。あれから会ってないし。あ、メールはしてるよ」
「あっそ。なんだつまんねえ。この間清水谷に会ったときにこにこしてたからさ」
「ふうん、休み中会ったんだ。そうか、実家の方で?」
「そうそう。清水谷と、……レイコと」
レイコちゃんか……。クリスマスに会った彼女の顔が浮かび、それから泣きそうな実花の顔が浮かんだ
「高校んときよく行ったとことか行ってさ、楽しかった」
木下はちょっと遠くを見て笑みを浮かべながら言った。ビールをごくりと飲む。
「ところで、お前実花からいろいろ聞いてる?」
「うん、まあ、遊園地行ったときにきいた」
「そっか。じゃあお前にこんなこと言ったら、最低なやつだと思われるかもしれないけど……」
そういって木下はビールを一口飲むと一呼吸おいた。
「俺、レイコのこと好きなんだ。もうどうしようもない」
木下は悲しそうな、切なそうななんともいえない顔をしていた。こんな木下の顔は初めて見た様に思う。
「でも実花に言えない。実花の俺への気持ちは伝わってるし、実花に言ったらそれでもいいからっていわれそうで、そしたら俺、実花のこと振り回して傷つけそうでさ」
木下はいつものように私が聞いていなくてもお構いなしという感じで、でも真剣に話していたけれど、私のほうはいつものように気を逸らすことはなかった。木下の言葉の一つ一つが胸にずしずしと響いた。
「実花は一生懸命だからね」
私はあきらめないといった実花の表情を思い出していた。そして今の木下の真剣な表情。二人ともお互いを思いやる気持ちが溢れている。
「でも木下も一生懸命だから。自分の気持ちにはうそはつけないし。心配しなくても悪いようにはならないよ。大丈夫」
私はそういうと木下に向けて思いっきり微笑んだ。
「お前、適当だな」
木下はそう言って私のほっぺたをむにっと摘んで微笑むと、小さい声でうそうそ、ありがとな、と言った。
29へ
いびつなハート 29 ペット?
それから木下の携帯に入っているレイコちゃんと清水谷くんと遊んだときの写真を見ながらちびちび飲んでいるところで、尾崎くんと加川くんが帰ってきた。
「おかえり、お先に」
そう言ってビールの缶を持ち上げる。
「あ、なんだよ。人が買い出しに行ってるときに始めちゃうの?」
「まあまあ、じゃあ改めまして」
二人に缶ビールを渡すと乾杯をする。尾崎くんはビールを一口飲むと、スーパーの袋から買ってきた袋菓子とチューハイを取り出しテーブルに置いた。
「俺は食べ物つくるね、キッチン借りるよ」
そう言って台所に行った。まもなく台所からいいにおいがしてくる。
「それ、何見てるの?」
加川くんが木下の携帯を指していった。
「ああ、俺が正月に高校のときの連れと遊んだときの写真」
そう言うと携帯を差し出す。
「彼は、この前のライブのときに会ったね。この女の子のほう、なんとなくえりに似てるなあ」
「そうだろ? 俺このまええりちゃんに会ったときびっくりしたんだよ」
木下はレイコちゃんと清水谷くんについて加川くんに話し出した。
「でさ、清水谷は意外にもこいつに惚れてるわけよ。なのにこいつは冷たくしてるわけ」
そう言うと親指で私を指す。のんびりと横で聞いていた私は不意を着かれてあわてた。
「別に冷たくなんか……」
「まあ、お前が多少つれなくても清水谷は十分うれしそうだからいいんじゃない」
「へえ、そうなんだ」
そう言って加川くんは特に動揺することもなく口の端をあげて笑っている。そんな様子に私のほうが動揺しそうだった。そこに尾崎くんが料理を持って戻ってきた。チャーハンとサラダとイカの炒め物。どれもおいしそうだ。
「いただきます」
みんなで一斉に箸をつける。どれもおいしかったけどイカは絶品だった。口々にうまいうまい、という私たちに、尾崎くんも満足そうだった。
「で、何の話してたの」
尾崎くんが話に加わる。
「いやあ、俺の友人があきに一目ぼれでさ」
「その話はもういいってば」
「え、萱野さんに? めずらしい奴だね。矢口さんならともかく」
尾崎くんはさらりと失礼なことを言う。しかもほんとに驚いたような顔をして悪気がなさそうなので、怒るに怒れない。
「俺はわかるよ、萱野に惚れる気持ち」
加川くんが私を見て、口の端をあげてにっと笑った。イカが喉に詰まりそうになってうぐ、と声を上げる。
「なにいってんの」
イカを何とか飲み込んで、そう答えるのがやっとだった。
「なんか小動物みたいで、からかいたくなるよ」
そう言って加川くんは私の鼻を指で突付いた。ずきん、と甘い痛みが胸に広がる。
「まあたしかにな。それは俺もわかるな」
木下もふむふむ、と頷いている。ふむふむ、じゃないよといいたかったが、鼻を突付かれた動揺を隠すのに精一杯で、しばらくおとなしくビールを飲んでいた。
30へ
「おかえり、お先に」
そう言ってビールの缶を持ち上げる。
「あ、なんだよ。人が買い出しに行ってるときに始めちゃうの?」
「まあまあ、じゃあ改めまして」
二人に缶ビールを渡すと乾杯をする。尾崎くんはビールを一口飲むと、スーパーの袋から買ってきた袋菓子とチューハイを取り出しテーブルに置いた。
「俺は食べ物つくるね、キッチン借りるよ」
そう言って台所に行った。まもなく台所からいいにおいがしてくる。
「それ、何見てるの?」
加川くんが木下の携帯を指していった。
「ああ、俺が正月に高校のときの連れと遊んだときの写真」
そう言うと携帯を差し出す。
「彼は、この前のライブのときに会ったね。この女の子のほう、なんとなくえりに似てるなあ」
「そうだろ? 俺このまええりちゃんに会ったときびっくりしたんだよ」
木下はレイコちゃんと清水谷くんについて加川くんに話し出した。
「でさ、清水谷は意外にもこいつに惚れてるわけよ。なのにこいつは冷たくしてるわけ」
そう言うと親指で私を指す。のんびりと横で聞いていた私は不意を着かれてあわてた。
「別に冷たくなんか……」
「まあ、お前が多少つれなくても清水谷は十分うれしそうだからいいんじゃない」
「へえ、そうなんだ」
そう言って加川くんは特に動揺することもなく口の端をあげて笑っている。そんな様子に私のほうが動揺しそうだった。そこに尾崎くんが料理を持って戻ってきた。チャーハンとサラダとイカの炒め物。どれもおいしそうだ。
「いただきます」
みんなで一斉に箸をつける。どれもおいしかったけどイカは絶品だった。口々にうまいうまい、という私たちに、尾崎くんも満足そうだった。
「で、何の話してたの」
尾崎くんが話に加わる。
「いやあ、俺の友人があきに一目ぼれでさ」
「その話はもういいってば」
「え、萱野さんに? めずらしい奴だね。矢口さんならともかく」
尾崎くんはさらりと失礼なことを言う。しかもほんとに驚いたような顔をして悪気がなさそうなので、怒るに怒れない。
「俺はわかるよ、萱野に惚れる気持ち」
加川くんが私を見て、口の端をあげてにっと笑った。イカが喉に詰まりそうになってうぐ、と声を上げる。
「なにいってんの」
イカを何とか飲み込んで、そう答えるのがやっとだった。
「なんか小動物みたいで、からかいたくなるよ」
そう言って加川くんは私の鼻を指で突付いた。ずきん、と甘い痛みが胸に広がる。
「まあたしかにな。それは俺もわかるな」
木下もふむふむ、と頷いている。ふむふむ、じゃないよといいたかったが、鼻を突付かれた動揺を隠すのに精一杯で、しばらくおとなしくビールを飲んでいた。
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